○ 阿部守・展
-鉄の詩ー
会場:直方谷尾(のおがた・たにお)美術館
福岡県直方市殿街10-35
電話(0949)22-0038
会期:2008年6月1日(日)~6月29日(日)
時間:9:30~17:30 (入館は17:00まで)
休み:定休日は月曜日
料金:一般100円 高大生50円
主催:当館、(財)直方文化青少年協会
企画協力:花田伸一(フリーランス・キュレーター)
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◎直方・都市考
札幌近在のローカルな美術案内板に、九州の一地方都市の美術案内を載せます。
理由は、個展をされる阿部守氏とは札幌・テンポラリーでの個展で、若干の顔見知りであること、拙い感想記を書かせていただいた方だからです。
もう一つは、福岡県は私の郷里で、直方という町は詳しくは知りませんが、親しく呼び交わした地名だからです。そして、私自身が筑豊の炭住育ちで、その地で知人が石炭・炭鉱と関わって「鉄」の展覧会をされるからです。
筑豊とは筑前と豊前という旧国名の合成語で、近代地名です。遠賀川中・上流域で石炭開発が本格化されることによって生まれた名称です。
直方は地図を見れば分かるように、このあたりの中心に位置しています。半径25kmで炭鉱地帯をすっぽり包むことができます。このあたりの筑豊平野の中心であり、そこには遠賀川が流れ、支流の英彦山川の合流地点でもあります。ですから、古くから、この地域の物流の中心、東西南北の交通の結節点でもあったことでしょう。
確かに直方は炭鉱都市です。炭鉱と共に近代を生きてきました。しかし、この地には大きな炭鉱は無く、むしろ、近隣の炭鉱地域への物流基地として繁栄したといったほうが正しいでしょう。鉄道網は網の目のように這い回り、どこに行くにも「直方」で乗り換えしたのを子供心に覚えています。木材などの集積地、「流れ」としての商業都市、「物」として石炭を掘る道具作りの「鉄の町」として栄えた。古くからの地域としての結節点としての伝統が、石炭が掘れなくても、関連産業を興させる活力の源泉になったと思います。
そのことが、石炭無き後の「石炭後」に有利に働いた。炭鉱関連の鉄工業は一般機械工業へと、さらに電気機械器具工業へと模索進出しているようです。坑内で石を掘っていた人々を、「さー、今日から鉄を造りましょう」と言っても、造れはしない。何かをするには、それに関わることをしていなければ新規移行など不可能です。ハードの基礎になるソフトを持っていないといけない。炭住地帯は一般住宅地帯へと変貌できた地域は良い方でしょう。
美術展での「鉄」と「石炭」は皮肉な関係です。石炭を掘る為の制作機具としての鉄、鉄を造る為にその石炭を利用した。「石炭」は過去のものとなり「鉄」だけが残った。今、その「鉄」を造る為に大量に「石油」を利用している。これが文明というものでしょう。地方の「鉄」産業都市は将来をいかに展望することができるのでしょうか。
おそらく、美術展は過去を踏まえつつも、将来の地方都市のあり方を考えるものでしょう。具体的な「鉄」をキー・ワードにして「直方市」はいかなる顔を持つことができるかを模索するものでしょう。
阿部守は「鉄の旅人」です。その輝きは青銅器のように、細やかな光を発していた。そのボリューム感は大らかで、ふっくらとしたほっぺたのようであった。鉄の表面、形には内面の詩心がにじみ出ていた。
終の棲家とすることなく終わるであろう、我が故郷。かの地に鉄の旅人が、一つの刻印をすることに深くときめく。6月、暑く鉄とともに始まった。
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